中学生といえば思春期真っただ中
疾風怒濤の時代とはよく言いました。
いろいろ生徒の問題も多様化しています。
「自傷行為について」話を聞く機会がありました。
とても大切な内容だと思ったので、記事にしました。
ぜひご覧ください。
「自傷行為」とは
医学的には「非自殺的な自殺行為」であり自殺を企図しているわけではありません。
自分自身に対して、痛みや体の表面の損傷を生じさせる行為で、死に至ることは意図しない物を指します。
例としては、皮膚を切る・刺す(リストカット)や、やけどをさせる、自分を殴る・噛む・頭をぶつける等といったことを指します。
気をつけないといけないのは、自傷行為をしている本人は、「死ぬ」ためにやってるわけではないですが、「死にたい」「消えたい」という考えは持っています。
だから、この程度の傷で死ぬわけないとほっとくのは危険です。
実際の行為と、心の様子は別であるととらえることが大切です。
古いデータですが、中高生の10人に1人は自傷行為を経験しているといったデータもありました。
自傷行為の背景とメカニズム
なぜ自傷をするかというと、「心の痛み」を押さえることができるからです。
きっかけは様々ですが、人間関係(家庭・学校・異性など)の場合が多いです。
不快な感情(不安・孤独・寂しさ・恐怖・怒り)を自傷行為をすることにより、緩和させようとします。
つまり、自傷行為をすることで、辛い記憶や感情を「切り離そう」とするのです。
自分自身で対処し、自分を守るために自傷行為をするのです。
「困ったら、周りの大人に相談しましょう」
とよく言いますが、子どもにとって、困っていることを人に相談することはとてもハードルが高いです。
それよりも一人でできるリストカットの方が簡単で、そちらに走ってしまう子どもが多いという現状があります。
そもそも、SOSを出してよかったという経験が子どもの中に少ないと、人に相談できずに自傷行為にはしってしまうという側面もあります。
だからこそ、「見える傷」の背後にある「見えない傷」に寄り添うことが大切になります。
自傷行為は、麻薬と一緒で、一定の効果はありますが、自傷行為を繰り返すと、耐性ができ、効果が減少します。
その結果、自傷行為の頻度や程度が増加し、エスカレートしていきます。
自傷行為をする生徒への初期支援と支援目標 よくある誤解
支援目標と誤解
自傷行為をする生徒への支援目標は、
- 自傷行為をしたことを報告できる
- 自傷行為をした傷を自分で手当てする、人にしてもらう
ことができるようになることが目標になります。
相談できる、人に頼ることができるという成功体験を積むことや、信頼できる人や落ち着ける場所ができること。
そうすることで、子どもが自傷行為をしなくても落ち着くことができるようになるのです。
子どもが、困ったことを報告できたり、自分で手当てをして「反自傷的な行動」ができたりしたときを肯定していきましょう。
自傷行為への初期対応としては以下の対応をしましょう。
自傷行為の報告があったら…
- 穏やかで冷静な姿勢で話を聞き「教えてくれてありがとう」と伝える
- 手当てをしたか確認する 傷を見せてもらい、手当てを促す
ただし、無理強いは禁物です - 自傷行為を行ったきっかけを聞いてみる
聞きすぎると不安定になることもある。最初は傷のケアを優先させましょう。 - 出来事を深堀りしすぎない、他人の考えや気持ち、状況の解釈は伝えない、アドバイスしない
- 本人の感情に焦点を当てて話を聞く
→辛い感情や対処法に目を向けられるようにする
教師として、以下のような気持ちで対応すことはと不適切です。
- ふつうはやらない
- 本気で死ぬ気はないから放っておけばよい
- 気づいての、あえて触れずにそっとしておくことが良い
- 自傷行為は周囲の気を引くためのアピール
具体的には…
- 自傷行為をやらないように約束をさせる
- 「結構みんなやっているよ」と軽く受け流す
- 「他にも大変な人がいるよ」などと他人と比較する
- 「家族が悲しむよ」と引き合いに出す
家族が自傷行為の原因の場合があります。 - 「いのちは大切にしないと」と道徳的な価値観を押し付ける
- 過度な同情や心配
上記の行動や、自傷行為を「叱る」「禁止」することは本人の努力を無視しているともいえます。
当事者を救うには適切な支援が必要です。
自傷行為と向き合う上で
まず「自己完結的な対処方法」から「人との関係の中での対処行動を増やしましょう」
苦しくなったらいつでも自傷できる=安心 という構図から 苦しくなったらいつでも相談できる=安心となるように、子どもの問題への向き合い方を変えていけるように支援をしていきます
道具を預かる場合は、子どもの不安感を理解したうえでサポートする体制ができていないと逆効果です。
リストカットが心の安定になっています。
つまり、道具が心の安定になっているのです。
その道具を預かると子どもは不安定になります。
サポート体制がきちんと整ってから、子どもとしっかりと話をしたうえで預かりましょう。
さらには、他の人のサポートを得られるように促すことも大切になってきます。
”本人の味方を増やす”という視点で、声掛けをしていけると良いでしょう。
最後に、子どもがサポートを得ることへの抵抗が減らしていけることがとても大切です。
今まで一人で頑張ってきたことを尊重し肯定的に受け止めながら、周りを頼ってよいことを伝えましょう。
子どもへの継続的なサポートとバックアップ体制の構築に向けて
自傷行為をとめるには継続的なサポートと、該当生徒を助けられるバックアップ体制を作ることが大切です。
自傷行為が続いてしまう場合
基本的には、すぐには自傷行為はとめることはできません。
先ほど目標部分で述べた、自傷行為をしたら「報告できる、手当てをする」ことを続けていくことが大切です。
例えば以下のようなことを教師として続けていきましょう。
- 何気ない会話をしたり、いろんな相談にのる
- 感情に焦点をあてて、言語化して受け止める
「あの出来事が、すごくモヤモヤしてつらかったんだね」 - 代替案の提示
例えば、リストカットをしたくなったら、「腕に輪ゴムを巻いてはじく」、「赤ペンで腕に模様をかく」など - 一人の先生で抱えるのではなく、学年部などチームで情報を共有する
病院など他機関での相談を促すことも視野に入れましょう
チーム学校で対応
一人の先生で対応することにも限界があります。
チーム学校で対応していきましょう。
- 自傷行為について多くの職員が理解を深める
- 職員間で支援の目標を共有する
- 「学校」「先生たち」というチームが温かくサポートしていると子どもに見える雰囲気づくり
- 中心に関わるのは少人数(担任+養護教諭)だが細かく情報共有する
他の先生は学級事務を受け持つなど、一人に負担が集中しないように - 自傷以外でも、本人のニーズに合わせて学習や日常の困りごとをいろんな大人がサポート
家庭との連携とサポート
子どもの自傷行為を、お家の方が知るときっとショックを受けることでしょう。
子どもと距離を取って冷たい対応を取るようになったり、逆に過保護になってしまう場合も考えられます。
ここでは、親の気持ちをサポートすることが大切になってきます。
まずは、以下のように保護者と教員でコミュニケーションをしていきましょう。
- 自傷に関する理解を共有
- 親の感情を言語化させて受け止める
- 親ができていることを見つけて肯定的にフィードバックをしてあげる
毎日朝ご飯をつくってあげている、宿題をみてあげれているなどを肯定する
学校からの家庭へのサポートは以下のことが考えられます。
- 子どもの気持ちにそったコミュニケーションを促す
子どもの相談にのる、聞くなど。子どもの感情をそのまま受け止めるように促す。
何気ない会話や一緒に楽しめる活動を勧める
自傷した後の手当
頼まれたことに応える(常識の範囲内で) - 子どもが保護者に気持ちを伝えるサポートをする
- 家庭内の悪循環になっている相互作用を弱め、良循環を強める
教師としてのポイントは、子ども本人のニーズを理解し、保護者と子どもが話しえるようにすることです。
子どもが分かってほしいところを保護者に分かってもらえるように教師として働きかけることが大切です。
さらに保護者に伝えることを子どもに理解してもらうように教師として努力していきましょう。
学校の考えや子どもの学校での頑張りを伝え、家庭を孤立させずに学校や(必要あれば外部団体)と協力して少しずつ良い方向に向かえるように関わっていくのが大切です。
参考:病院(精神科)受診を進めることを検討する目安
- リストカット以外の自傷行為や危険な行動が増えた(拒食・過食、アルコールや薬物乱用など)
- 自傷前後の記憶が抜け落ちている
- 自殺未遂を起こす
- 事象の頻度が上がり、方法や部位のバリエーションが増えた、コントロールできない
- 深い傷になる自傷、首から上への自傷
自分の経験から(最後に変えて)
自分が生徒と向き合っていて難しいなと感じるのは、女子生徒のケガや傷などがなかなか見えないことです。
また、女子生徒だと、私に相談しにくいといったこともよくありました。
心配な生徒は養護の先生や副担任の女性の先生、スクールカウンセラーの先生にお願いをして、その生徒をよくみてもらいました。
そこで、傷を見つけたり、傷がなくとも、心にもっていたモヤモヤを上手く引き出し、改善に向かうことができたという経験がたくさんあります。
生徒と向き合い続けるのはエネルギーがいります。
また、学校内だけでなく、家庭、外部の団体などとも連携を取っていくことも多いのでとてもエネルギーがいります。
周りの先生にサポートをお願いしながら、生徒がすこしでも良い方向に向けるように粘り強く取り組んでいます。
教師という仕事は、課題を抱え続けて進み続ける力が必要だと感じています。
その中で、少しでも光が見えれば子どもとともに喜び、励まし、さらに進んでいくのが教師としてのやりがいではないかと感じる毎日です。
コメント