教育現場の実態を描いた書籍『先生も大変なんです いまどきの学校と教師のホンネ』(江澤隆輔 著)。
「学校の先生って、授業以外に何をしてるのかよくわからないよね」という世間の疑問に応える形で出版された本書ですが、刊行された2020年3月から早くも6年が経ちました。
では、あれから学校現場の働き方は実際に変わったのでしょうか?
人気Podcast番組『COTEN RADIO』の昭和OSと世代間ギャップをテーマにした回(【番外編#140】昭和OSの終焉とAI時代の志①)の学びも交えながら、私の勤務する自治体のリアルな現状とともに振り返ってみたいと思います。
目次から振り返る「当時の学校の課題」

本書の目次には、当時の教員が抱えていたリアルな苦悩がズラリと並んでいます。
- 時間や手間をかけるのが「いい教師」?
- スクラップ(やめること)が苦手な学校の構造
- 学校にはタイムカードがなかった
- どれほど働いても残業代がもらえない「給特法」
- 定時で仕事を「始められない」「上がれない」構造
- 部活に全てを投じた日々/顧問は手当てをたくさんもらっている?/そもそも部活動は教師の仕事?
- ギリギリの状況にいる教師
タイムカード、残業代、部活動、定時退勤……。あれから6年が経ち、これらの課題はどれほど改善されたのでしょうか?
結論から言うと、「一部は少し改善されたが、根本的な構造は大きく変わっていない」のが正直なところです。
1. スクラップ(業務削減)が苦手な学校構造
【結果:部分的に改善】
コロナ禍をきっかけに、行事の精選や授業での練習時間の短縮が進みました。研究授業や各種研修もオンライン化が進み、教員免許更新制の廃止など一定の削減は見られます。
しかし、「ある活動を完全に無くす」というのは依然としてハードルが高いのが現状です。行事や地域連携など、学校には「残すべき価値」も多く、完全に削ぎ落とす難しさを感じます。
2. タイムカードと勤怠管理
【結果:形を変えて導入されたが、手間は増えた?】
「タイムカードがない」問題は、勤怠管理システムの導入という形で変化しました。
ただ、私の自治体では校務用PCを立ち上げて出退勤を入力するシステムになったため、「出勤してピッとかざすだけのタイムカードの方が楽だった…」という声も。さらに、勤怠が「見える化」されただけで、実際の退勤時間が劇的に早くなったわけではありません。管理のための管理にとどまっている側面もあります。
3. 給特法(残業代が出ない仕組み)
【結果:わずかな手当増額にとどまる】
教職調整手当の上乗せ割合が4%から5%に引き上げられました。
しかし、基本給30万円の場合、月12,000円から15,000円へ3,000円増えた程度です。月80時間〜100時間の残業に対してこの手当では、根本的な解決とは言えません。「どれだけ働いても自主的な残業とみなされる」構造は、今も大きな課題として残っています。
4. 部活動の地域移行(地域展開)
【結果:迷走と課題が山積み】
「地域移行」から「地域展開」へと言葉は変わったものの、スムーズに進んでいるとは言いがたい状況です。
休日の部活指導手当は改善の兆しを見せており、平日手当の検討も進んでいますが、地域側に受け皿がない問題や、指導者の報酬問題など、一筋縄ではいかない課題が浮き彫りになっています。
価値観が変わるには「30年」かかる

こうして振り返ると「何も変わっていないじゃないか」と絶望的に見えるかもしれません。
しかし、50代のベテランの先生方からは「今の若い先生は昔に比べたらずいぶん楽になったよ」という言葉をよく耳にします。
- 男性の先生が子どもの看護で急に休むことが受け入れられるようになった
- 定時で帰ることに対して文句を言われない雰囲気になってきた
確かに、自分の家族を犠牲にしてまで働くことが美化されていた時代に比べれば、時代は間違いなく前進しています。
しかし、ここには「世代間のギャップ」という新しい苦しみも存在します。
ベテラン世代の時代は「祖父母に子どもを預けてフルコミットする」ことが可能だったかもしれません。しかし核家族化が進んだ現代では、夫婦で調整しながら共働きでやりくりしなければならず、仕事に全力投球したくてもできない環境があります。
COTEN RADIO(ゲスト:尾原和啓氏)でも語られていたように、人は誰しも「自分世代の常識や価値観(OS)」にとらわれてしまう生き物です。きっと20年後の世代も「今の若手は楽になった」と言うでしょうし、その時の若い世代にはその時代特有の悩みがあるはずです。
おわりに:必要なのは「他人の靴を履く」エンパシー

働き方改革を本当の意味で進めるために必要なのは、「エンパシー(相手の立場に立って考える力)」ではないでしょうか。
ライターのブレイディみかこさんの言葉を借りれば、「他人の靴を履いてみる」ことです。自分が管理職や制度を作る立場になったとき、今現在子育てや現場で悩んでいる世代が働きやすい環境を本気で整えていく。そのためには、現場の苦労やリアルな現状を地域や社会にも発信し、理解を得ていく草の根の活動が欠かせません。
裁判で声を上げる方、文科省に陳情へ行く方など、様々な形で声を上げる動きが増えてきました。
周りの大きな動きを応援しつつ、現場にいる私たち一人ひとりも「今できること」を考えて行動していきたいですね。

エンパシーについて、こちらもご覧ください。


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