目に留まったので今回は、富士乃夜桜さんの著書『獄食: 読書と夜桜が好きなベテラン受刑者』を読んでみました。
実は、私の自宅から車で30分ほどのところにも刑務所があります。隣がスポーツ施設になっていて、高校時代はよく運動しに行っていました。しかし、「どこから入るのか」「中はどんな施設なのか」は全く知りません。調べてみると、年に1度「矯正展」という外界との交流チャンスがあるみたいですが、普通に生きていたら刑務所の中を知る機会なんて、まずありませんよね。
「未知の世界を覗いてみたい」そんな好奇心から、本書を手に取ってみました。
作者の夜桜さんが、今までの著者と一味違う

これまでに出版されている刑務所扱ったエッセイやドラマは、作者が受刑者から聞き取りをして書いたものが大半だそうです。
しかし、本作の著者である富士乃夜桜さんは「現役の受刑者」。つまり、リアルタイムで塀の中から執筆し、出版されているのです。著者曰く「だからこそ、圧倒的にリアル」です。現役?受刑者からすると、聞き取りだと、要点がずれて、どうしてもリアルさにかけてしまうそうです。
私が過去に読んだ刑務所関連の作品といえば、土山しげる先生の漫画『極道めし』(映画化もされましたね)くらいです。
『極道めし』とは? 刑務所の受刑者たちが、年末に出るおせち料理を賭けて、「人生で一番美味かった飯の話」を競い合うヒューマンドラマ。
『極道めし』はエンタメとして最高ですが、刑務所の「実態やシステム」までは描かれません。その点、本書は受刑者のリアルな声と生活がこれでもかと垣間見える、非常に興味深い一冊でした。
刑務所のご飯は学校給食より豪勢!?

X(旧Twitter)を見ていると、たまに「刑務所のご飯は、学校の給食よりもボリュームがあって豪華だ」という投稿を目にします。
「まさか、嘘でしょう?」と思っていましたが、本書を読んで「あながち間違いではないかもしれない」と分かりました。
- 受刑者の1日の食費は約600円(1ヶ月約18,000円)
- 専任の管理栄養士がつき、バランスの取れた献立を作成
- その献立を元に、調理場の受刑者が調理
自炊している家庭の1人あたり食費と考えれば、1ヶ月18,000円は妥当な額(ちょっと安い?)かもしれません。管理栄養士が管理しているため、品数や栄養バランスの面では、一見すると「豪華」に見えるのにも納得です。
ただし、著者曰く「麦飯や白米の質は悪く、決して美味しくはない」とのこと。写真の見栄えだけで「シャバより贅沢だ」と一概には言えなさそうです。
味が変わる決定的な要因
さらに驚いたのは、「管理栄養士の裁量次第で、食事の質が天と地ほど変わる」という事実です。
著者が入所した当初の管理栄養士は、受刑者を人間として扱っていないような人物だったらしく、必要最低限のカロリーでしかご飯を作らなかったそうです。受刑者たちが様々な方法で抗議しても、メニューは一切改善されませんでした。
しかし10年ほど経ち、新しい管理栄養士に変わった途端、メニューが劇的に改善されたとのこと!娯楽の極めて少ない刑務所において、日々の食事は最大のイベントです。誰が上に立つかで現場の幸福度がここまで変わるのかと、深く考えさせられました。
しっかり食べているのに、どんどん痩せていく理由

これだけ栄養バランスの整ってそう食事を出されているにもかかわらず、受刑者たちはどんどん痩せていき、1年だけの懲役を終えた人でも軽度の栄養失調状態になっていることがあるそうです。
管理栄養士がカロリー計算しているはずなのに、なぜでしょうか?
そのわけは「空調設備(エアコン)の有無」ではないかなと想像しました。 実は、日本の刑務所には基本的にクーラーがありません(調理場など一部を除く)。暖房器具も、北海道などの極寒地域以外には設置されていないそうです。
- 夏は猛暑、冬は極寒の過酷な環境
- 自分の体温を維持するために、体が大量のカロリーを消費
- さらに日々の刑務作業(労働)による消費
つまり、普通に生活するよりも遥かにエネルギーを消費する環境に置かれているため、自然と痩せていってしまうのです。
ここで疑問に思うのが、「受刑者の人権」についてです。今や学校現場(比べるなよ)でもエアコン完備が当たり前になっている時代に、この環境はアリなのか、ナシなのか。
刑務所に服役することは「自由刑」と呼ばれます。すべてを管理され、自由を奪われること自体が「罰」になっています。けれど、欧米とは自由刑についての考えがずいぶん違うようです。
- 欧米の考え方:「自由を奪うこと」が罰。それ以外の設備(エアコンや筋トレ器具、面会制限など)は外の世界に合わせるべき。
- 日本の風潮:罪を犯した者は「排除されるべき悪」というイメージが強く、生活環境の改善が後回しにされがち。
罪を犯した以上、罰を受けるのは当然です。しかし、そこから猛省し、自分を律して社会に復帰しようとしている人に対しては、更生のための最低限の環境やベネフィットがあってもいいのではないか、と感じました。
教育現場にも通じる「縦割り行政」のリアル

本書を読み進める中で、私の胸にグサリと突き刺さる一節がありました。
現場の職員が、いかに大変な労苦を強いられているかについては、法務省のやるべき事は、単に観念でしか改善できない学者や専門家と言う実は現実を知らない人たちの意見ではなく、最も身近で受刑者を知る職員の意見を通して、新しい制度を作らねばなりません。
——『獄食』P278より引用
一癖も二癖もある受刑者たちと日々向き合う刑務官(職員)の苦労は、想像を絶するものがあります。それなのに、現場のリアルを知らない学者や専門家が、頭の中の理論(観念)だけで指示を出し、現場をかき乱してしまう……。
「これ、学校現場とまったく同じじゃないか……!」
思わず、激しく首を振って共感してしまいました。 教育現場でも、現場の状況や教員の多忙感を置き去りにしたまま、上層部や専門家の意見だけで新しい方針やシステムが降ってくることが多々あります。
「現場の声を聞いて、本当に子どもたちや私たちのための改善をしてほしい」 それは、刑務所の職員も、学校の教員も、まったく同じ切実な願いなのだと痛感しました。受刑者の目から見てもそう感じるということは、国全体のシステムとしての大きな課題なのかもしれません。
最後に

非日常である「刑務所の壁の内側」を覗き見ることができる、非常にエキサイティングな一冊でした。自分の知らない世界、全く異なる視点に触れられるのは、読書の醍醐味ですね。
学校現場への振り返りも含めて、たくさんの気づきをもらえる本でした。また面白い本を見つけたら、ブログで紹介します!
読者の皆さんは、刑務所の食事や環境についてどう思われましたか?ぜひコメントで教えてくださいね!

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