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「しんどい」と感じたら即実践。教員人生を豊かにする「業務の線引き」と休む勇気 ー「先生に向いていないかもしれないと思った時に読む本」(石原加受子)を読んでー

働き方改革・仕事術

図書館をぶらぶらと歩いていた時、ある本のタイトルが目に飛び込んできました。

このタイトルを見た瞬間、私は強い違和感を覚えたのです。

「サラリーマンを辞めたいと思った時に読む本」なら、よく見かけますよね。日本のサラリーマンは約6,000万人以上いるのに対し、教員(幼稚園〜高校)の数は約100万人。圧倒的に分母が違います。

「『先生に向いていない』なんて、ターゲットがニッチすぎるのでは?」「医者や弁護士に向いていない時に読む本なんて、滅多に見かけないのに……」

そう思いました。しかし、連日のようにニュースで流れる「教員不足」や「教員離れ」の報道。 「はたして先生という職業は、本当にそんなに離職しやすい仕事なのだろうか?」 気になって、少し調べてみることにしました。

【数字の比較】データが隠す「教員 vs 一般企業」の落とし穴

まずは、厚生労働省や文部科学省のデータから、それぞれの離職率をシンプルに比べてみましょう。

区分教員(公立学校)一般企業(民間)
全体の離職率約 1.0 %約 15.0 %
大卒1年目の離職率約 5.5 %(※東京都など)約 10.1 %

これだけを見ると、全体でも1年目でも教員のほうが圧倒的に低く、「やっぱり公務員は安定していて辞める人が少ないんだな」という印象を受けますよね。

実際、東京都教育庁が新卒教員の離職率を発表した際も、「民間企業の1年目(10.1%)に比べれば、5.5%は低い。定着率は高い」と説明しています。

しかし、現場で働く私たちからすると、この比較には「とんでもない落とし穴」があるのです。

なぜ教員は「全体で1%」しか辞めないのか?

一般企業の場合、キャリアアップや年収アップ、あるいは「会社が合わないから別の会社へ」というポジティブ・ネガティブ両面の転職が日常的に行われます。そのため、毎年15%前後の人が流動的に動きます。

一方、教員が「1%」という驚異の低さにとどまっている理由は、主に以下の3点があると考えます。

  1. 民間への転職ハードルが高い 教員の世界は良くも悪くも特殊です。「ビジネススキルが身につきにくい」と言われることもあり、年齢が上がるほど未経験からの転職が難しくなります。
  2. 強固すぎる「公務員」の安定性 クビになるリスクがほぼなく、年功序列で給与が上がっていきます。守るべき家族がいる中堅・ベテラン層は、どんなに激務でも「定年まで勤める」選択をしがちです。
  3. 地域の賃金格差 特に地方(田舎)では、教員の年収はトップクラスです。私もかつて転職エージェントに登録した際、「教員からの同じ賃金を維持しての転職は非常に難しい。年収が3分の2から半分になる事例もある」と言われました。

つまり、教員の「1%」という数字は、働きやすいから低いのではなく、「システム上、中堅・ベテラン層が辞めにくくなっているから」というのが大きな理由なのです。

本当にヤバいのは「新卒1年目」の辞め方の質

先ほど「一般企業の新卒1年目は約10%、教員は約5.5%だから教員のほうがマシ」というデータを見ましたが、ここで注目すべきは「なぜ辞めるのか」という退職理由の深刻さです。

一般企業の新卒が1年目で辞める理由は、次のような「ミスマッチ」が多い傾向にあります。

  • 「思っていた仕事と違った」
  • 「もっと給料が良いところに行きたい」
  • 「職場の人間関係が合わない」

ところが、教員(新卒1年目)が辞める理由は全く異なります。 自治体の調査によると、1年目で自主退職した教員の約4割が「メンタルの不調(精神疾患など)」を理由に現場を去っているのです。

  • 一般企業の退職: 「次へ行こう」というキャリアの選択
  • 教員の退職: 心身の限界を迎えた「ドクターストップ(強制終了)」

民間企業であれば、部署異動や第二新卒という「逃げ道」が見つけやすいですが、学校現場はどこに行っても同じような激務が待っています。さらに、新任であっても「1クラスの責任者(担任)」として保護者や児童の前に立たされるため、プレッシャーの重さが一般企業の新人とは比べものになりません。

10年目の私がたどり着いた、しんどくならないための「心構え」

担任と保護者の関係が一度拗れても、年度末まで簡単に担当を変えることはできません。職員室の人間関係で病んでしまう人も多いです(実は私もそうでした)。

「公私共に先生であらねばならない」という見方も相まって、しんどくなる人が多いこの職業。私たちはどういう心構えで勤めればいいのでしょうか?

私が実践している2つのマインドセットの転換をご紹介します。

①「〜のためにしなくてはならない」から「業務だから、〜する」へ

先生の世界には「子どものために無制限に働かないといけない」という過度な奉仕精神がまだ残っています。部活動やPTAなど、ほとんど報酬がないのに「やって当たり前」という空気感。

私は最近、その考え方をきっぱりと変えました。 「勤務時間は全力で働く。ただし、勤務時間を超える業務については、断る、又は割り振りを出してもらえるよう交渉する」

私の場合、子育ての時間を確保するため、休日の部活動は年度初めにキッパリとお断りしました。その代わり、以下の業務を率先して引き受けています。

  • 平日の部活動の指導
  • 授業の実践レポートの作成や、出張の参加
  • 他の先生が休んだときの補講

「面倒くさい業務を自分が引き受ける」というカードを持つことで、持ちつ持たれつの良好な人間関係が回るようになり、周りの先生からの信頼感も増しました。

もちろん、急な生徒指導などで残業せざるを得ない場面もあります。その時は自分だけで抱え込まず、管理職に相談して業務の割り振りを調整してもらいます。「これは仕事」と明確に線引きすることで、フルコミットしつつ、別の時にしっかり休める環境を整えています。

②「〜のためにしなくてはならない」から「自分は〜したい。だから〜する」へ

もう一つの転換は、主語を「自分」にすることです。

  • 「自分は休日は子どもと過ごしたい。だから平日は周りを全力で助ける」
  • 「自分は授業の力をつけたい。だから授業を頑張るし、レポートも引き受ける」

このようにマインドを入れ替えたことで、周りの先生だけでなく、保護者からも「スーさん先生、育児のために早く帰ってくださいね!」と応援してもらえるようになりました。

また、「授業実践レポート」を積極的に引き受けることは、教師としてのマストスキルである「授業力」の向上に直結しますし、自分のキャリアにとってもプラスになります。書けば書くほど効率よく上手に書けるようになり、今では学会の論文執筆までするようになりました。

今年度、私は中堅者研修(10年研)や助成金のレポートなど、少なくとも5本のレポートと3本のパワポ発表を控えています。しかし、自分が「やりたい」と納得して、空き時間を効率よく使って準備できているため、残業なしでこなせています。

「自分がやりたいこと、大切にしたいこと」を明確にして周囲に伝える。 これが、本当にしたい仕事に集中するための秘訣です。

それでも、教師がしんどくなった時は

私は、「休職するのは立派な選択肢の1つ」だと思っています。 「あの先生は休んだから使えない」なんて悪口を言う人がたまにいますが、気にする必要はありません。

本当に心が潰れてしまうと、人間は頭が回らなくなります。そして、頭が回らない時に出した結論に、ろくなものはありません。

「あれ、おかしいな」と思ったら、まずは1日休む。病院へ行く。管理職に相談する。本格的にしんどくなる前に早めに休みを取り、その期間に「復職するのか、スキルを身につけて転職するのか、別の道を歩むのか」をゆっくり整理すればいいのです。

自分を大切にすることが、巡り巡って、自分が受け持つ児童生徒を大切にすることに繋がります。

昔、ある元校長先生から伺った話を今でも思い出します。

10年前、台風が接近しているときに『職員も積極的に休みをとってください』と伝えたら、他の校長たちから『公務員なんだから学校に備えるべきだ』と非難された。 でも、私の判断は間違っていなかったと思う。万が一、通勤中に職員が事故に遭って命を落としたらそれこそ責任問題だ。十中八九、教員が学校に来なくて困るようなことはないし、本当に酷い被害ならそもそも出勤すらできないのだから。自分を大切にできない人が、子供を大切にできないのではないか。

今では台風の際の計画運休や在宅勤務が当たり前になりつつあります。「台風でも絶対に出勤すべき」という根性論は下火になりました。

自分を大事にすること、そして他者を大事にすること。 どちらも両立させていくことこそが、教師人生を豊かにする秘訣ではないでしょうか。

最後に

石原加受子さんの著書を読んで、改めて「もっと先生方は自分を大切にしてほしい」と強く感じました。

気持ちの折り合いの付け方に悩んでいる方は、ぜひ本書を手に取ってみてください。著者の石原さんはカウンセラーとして長年学校に関わってきた方です。「子どものカウンセリング本は多いのに、教師のための本がない」という問題意識から書かれた、現場の先生方に寄り添ってくれる一冊です。

今、学校現場がしんどいと感じている先生方、ぜひ読んでみてくださいね。

スーさん
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参考文献

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